タカハシ社長の南国奮闘録

第101話 ものづくりの継承

タイ進出支援を事業目的として立ち上げた株式会社FSIに、新たに継承支援の事業を追加した。それに伴い会社名も「日本技能伝承株式会社」に登記変更した。新会社の目的は、中小企業のBCP事業継続計画を支援することだ。コロナの影響で高まる事業継続のリスクに備えて役に立ちたいと思っている。  技能伝承の体系化をはじめ、会計・人事・庶務・総務・法務に関するサポート、各種コンサルティングなど幅広く行っていく予定だ。  事業継続には様々な壁がある。後継者がいない、販売不振が続いている、メインユーザーの撤退が決まった、など様々な理由で今後の先行きに不安があり、廃業、撤退を考えた社長は少なくないだろう。さらにこの問題は、コロナで加速すると思われる。  廃業、撤退を意識したときに真っ先に考えるのは社員たちの生活だ。次に、これまで信頼を得てきたお客様の仕事の引継ぎ。タイでの廃業には一年ほど時間を要する。廃業してお金が残るのか。もし売れるとすれば会社はいくらぐらいの価値になるのか。今までにない知識が必要となる。  新会社では、そんな時に信頼できて安心できる支援をしたい。さらに、タイでM&A会計を行っているテクニアのグループ会社ASIA BUSINESS CONSULTINGがフォローを行う。この会社は、タイの文化や国民性を理解した上で支援できるため、お客様の安心材料になると考えている。  高い技術を眠らせたまま廃業すれば、タイのサプライチェーンに悪影響を及ぼしてしまう。そうした事態を避けるために、できる限り技能・技術を継承して何らかの形で製造資産をこの国のために残していきたい。仮に売買という形になったとしても、安心して事業が継続できるように話を進めたい。テクニアの技能伝承研修塾「テクニアカレッジ」は10年以上続けて来た実績があり、技能伝承のスキームを提供できる。  日本の町工場では、特許レベルの技能が標準化・マニュアル化・組織化されていない場合が多い。そんな技能を目利きが判断して、価値として認知されるよう支援することで、買う側は安心感を得られ、手放す側のメリットにもなる。利益と資産価値、内部留保に技能・技術をプラスすることでものづくり企業に貢献できれば本望だ。  テクニアは来年で110周年を迎える。大戦や大きな経済危機を乗り越えてこられたのも、ものづくりの発展があったからこそ。大戦のときには4年間も疎開して操業できなかった。それでも今がある。我々テクニアグループにできることは ものづくり事業が継続できるよう支援の方法を考え尽力することであり、それが恩返しだと思う。  タイも日本もコロナの影響でずいぶん疲弊している。しかし、これを乗り越えるために世の中が求めることが変わり、その都度あたらしいものづくりが必要となる。その時のために絶対ものづくりの灯を消してはならない。  メーカーを下支えする中小零細企業のひたむきな技能があってこそ、製造業はさらに発展する。私たちが豊かに生きていくために工業のカテゴリーが移行することはあれども、ものづくり企業なくして人類の豊かな発展はないと確信している。  コロナショックで今は苦しいが、必ず新たな方向に発展加速する。だからこそピンチを何とか乗り越え、笑顔で暮らせる世界に導けるようにものづくりの技能継承を支援していくことが、我々にできるコロナ支援である。

20年6月1日掲載

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