タイ企業動向

第66回 「タイ大麻事業に参入続々」

ガンなどの治療にも有効とされ、リラックス効果をもたらすとされる大麻。その大麻由来の成分を食品や化粧品などの市場でも活用しようという動きがタイで急速に広がっている。今年1月には、保健省食品医薬品委員会(FDA)への申請を条件に大麻草の栽培・加工・販売が認可され、3月には医薬品のほかサプリメント(栄養補助食品)や飲料、美容製品などへの使用が認められた。これを受け、企業各社からは堰を切ったように参入表明がなされており、業界はちょっとしたブームに沸いている。事業の多角化や新型コロナウイルスの感染拡大からの回復など目的や狙いはさまざまで、こうした動向に投資意欲を示すファンドさえ存在する。タイの大麻解禁元年。その動向を概観する。 (在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

現プラユット政権にとって大麻解禁は大きな関心の一つで、とりわけ連立与党内の中核政党「プームジャイタイトウ(タイ名誉党)」の選挙公約だったことは本紙2019年9月号で書いた。旗振り役は保健相も兼ねるアヌティン党首(副首相)で、同氏は大麻関連の現在の世界市場は約5000億バーツ(約1兆7000億円)。うち順次解禁が進むタイのそれは3年後に206億バーツ(約7000億円)に達すると試算する。  目下、関連法の整備が続いており、大麻草のうち成分が比較的少ないヘンプの葉、茎、幹、根の5種類が第5種麻薬指定からすでに除外された。これらを栽培・収穫し食品や化粧品などに添加するといった商業利用が認められることになった。コロナ禍で企業の業績が軒並み落ち込む中、新事業による起死回生策として、またリスク分散のためのポートフォリオ組成の対象として関心を集めている。  ヘンプの栽培にはまとまった土地と育成にかかる高度なノウハウが必要となることから、この分野の参入は1~2社程度とまだ少ない。一方で、大麻成分を含む製品の開発や販売については、すでに数十社が関心を示し、新たな子会社を設置するなど動きは活発だ。新しもの好きのタイ人気質を見越したブランド店の設置なども進められている。  大麻草の栽培事業を、貧困から脱却できないたばこ農家救済のために活用しようという動きもある。政府のたばこの葉の買い取りは税制の改正もあって減少傾向が続く。生産農家は収入の低下にあえいでおり、救済が狙いだ。ヘンプを含む大麻草への転作を奨励し、収穫については全量を買い取る方針。抽出した大麻成分は医療用に供給するという絵図を描く。  大麻関連事業への参入を新規市場の創出ととらえ、投資の対象と見るファンドの動きも広がっている。大麻が合法化されている欧米諸国などでは、ファンドの投資がベンチャー企業の育成にも貢献している。政府もこうしたマネーの流入を基本的には歓迎しており、新たな市場の形成につなげたい考えだ。タイの「大麻ラッシュ」は当分続きそうだ。(つづく)

 

2021年7月1日掲載

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