タイ版 会計・税務・法務

【第113回】 移転価格税制導入について

Q:今年の初めに話題となったタイの移転価格税制ですが、その後の動きについて教えてください。

A:この稿で年初にお伝えしたように、移転価格税制の法案は内閣の審議を年明けに通過していたのですが、今般、国民立法議会に最終案として提出されました。もともと、歳入局において公聴会を行なった後、内閣に提出されたものですので、内容的には大きな差はありませんが、以下の点で内容がより的確に規定されましたので、その点についてご説明させていただきます。

1)実施時期;年初に閣議認可された際には、歳入局で作成された草案の通り実施開始年度が2017年から始まる年度となっていたため、やや慌てた経緯があったのですが、実施時期が2019年1月以降に始まる年度と、より現実的なものになりました。したがって、2019年12月末決算から対象になると同時に2019年5月の法人税申告時には、当該改正への完全な対処が求められます。

2)報告対象企業;法令において定められる基準金額を超える関連会社取引を有する企業は、確定申告において関連会社取引報告フォームに記入が求められます(フォーム自体は法人税申告時に全ての企業が準備しなければならないとされています)。なお、この基準金額については、30百万バーツを下回らないものとされております。したがって、売り上げが大きくても関連企業取引が極小な企業については、影響がないことになります。

3)関連会社基準;取引報告の対象となる関連会社については①株式の過半数を直接、もしくは、間接的に保有する、もしくは保有されている企業、②直接もしくは間接的に、過半数の株式を同一の株主に保有されている企業、③実質的に経営権を保有している、されているような企業、と定められました。①、②において株式保有の割合に関する間接保有割合が規定されていることに加えて、③において実質経営支配基準が入っていることから、場合によっては財務諸表注記で開示されている関連会社取引より広い範囲がカバーされる可能性もあります。

今後、国民評議会で同案が認可されたのちには、歳入局よりa) 関連会社報告が必要な金額基準についての詳細案、b)  関連会社取引についてのより詳細な規定、c) 関連会社報告フォームの記載方法の詳細 といった様々な詳細規定が出てくることが考えられます。

いずれにせよ、年初に閣議決定された際には、実施時期を含めて内容が練れていない印象がありましたが、今回の草案の議会提出を経て、来年からの実施がより具体化してきたのではないかと思われます。

移転価格税制の導入について、いたずらに騒ぐことはないかと思いますが、まずは、①赤字が続いていないか、利益率があまりに低くないか、といった利益水準の見直し、②関連会社との取引量が、売上高や費用に占める割合が多くないか、③親子ローンやロイヤルティーといった比較的市場の価格水準がわかりやすい取引を、親子間で行なっており、そうした価格水準と乖離した取引を行なっていないか、といった点について自社で見直すとともに、少なくとも形式基準を満たすためにも親子間取引についての説明資料を準備することについて、より注意をしていくことが必要かと考えます。

 なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。

 

著者プロフィール

小出 達也 (Tatsuya Koide)

Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー

1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。

連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th

ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk 

 

2018年10月

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