タイ鉄道新時代へ

【第49回(第3部第9回)】タイ国鉄の新型車両搭乗記

銀色のステンレスのボディに、えんじ色とピンクのツートンライン。車内は開放感たっぷりと明るく、白と赤のコントラストが落ち着きを醸し出している。洗面台はすっきりとした造り。デッキも清潔感があり、ステップから転落しないように予防板が配置されるなど乗客への気配りもうかがえる。タイ国鉄が導入した新型車両は現在、北部・南部・東北部2路線の主要4路線で運行がなされている。新しいものが大好きなタイ人客に支えられて、乗車60日前のチケット発売開始後間もなく売れ切れが続出するなどの人気路線ともなっている。どこが気に入られているのか。その新型車両にこのほど体験乗車した。(文と写真・小堀晋一)

2017年7月某日。記者(筆者)はタイ東北部ウボンラーチャターニー県にいた。隣国ラオスまで約90キロ。高層階の建物は少なく、どこか懐かしい牧歌的な国境の街。暖かい気候や人々の暮らしに魅了され、世界各地から多くの観光客が足を踏み入れている。その終着駅ウボンラーチャターニー駅から間もなく発車するタイ国鉄寝台列車「特急第24号(愛称:イサーンワッタナー号)」に乗車しようとしていたのだった。目指すはバンコク・フアランポーン駅。全長575.1キロの旅だ。

タイ国政府観光庁主催の取材ツアーで南イサン一帯(ブリーラム、スリン、ウボンラーチャターニーの3県)を周遊した後の帰り道だった。タイリーグ(プロサッカー)の強豪ブリーラム・ユナイテッドのホーム視察、スリンに伝わる伝統絹織物や象遣いの様子、ウボンラーチャターニーで開催されたキャンドル・フェスティバルなどを見学して回った。興奮冷めやらぬ中で最後の体験取材となったのが、この新型車両への乗車だった。

インターネット予約をしたのは約1カ月前の6月半ばだった。ところが、すでにこの時点で1等寝台はすべて売り切れ。わずかに2等寝台の上段席がいくつか残っていたのを慌てて押さえた。下段席から予約が埋まっていくのは、上段席のスペースがやや狭いのと、揺れる列車の中で梯子を使って昇降するのが面倒なためだ。改めて新型列車に対する人気のほどを痛感した。

列車は定刻19時発車の約1時間前に入線した。ピカピカと鮮やかに光を放ちながらホームに滑り込む車体に一心不乱にカメラを向けた。美しいツートンカラーのライン。車体に埋め込まれた行き先などを示す電光掲示板も新鮮だった。これならば客車内も…。期待に胸が高まった。

ドアが開き、2段ほど高くなったデッキへ上がった。白を基調とした落ち着いた造り。とにかく美しい。洗面台周りもコンパクトにまとめられ、清潔感でいっぱいだ。客室とデッキは防音・密閉効果のある自動扉で遮られ、安心して旅が楽しめそうだった。

客室内に入ると、鮮やかなえんじ色に近い赤色のシートが目に飛び込んで来た。壁一帯は暖色ある白色。色彩のコントラストが美しかった。頭上には運行状況を示す大型の液晶モニター。各席に電源のコンセント。荷物を収納するスペースも十分に確保されていた。

定刻に発車後、隣席となったポムさん一家と会話をする機会に恵まれた。家族4人でウボンラーチャターニーへ旅行に訪れ、バンコク・ドンムアン区までの帰路なのだという。列車の旅が好きで、中でもこの新型車両は大のお気に入り。「綺麗だし、清潔なところがいい。飛行機のように狭くないのもいい」。4回目の乗車となる今回の旅を笑顔で締めくくっていた。

タイ国鉄の新型車両導入計画は14年末にスタートした。老朽化による買い換えが理由で、客車115両が新調されることになった。調達先は世界最大の車両メーカー中国中車股份有限公司(CRRC Corporation)の関連会社「中国中車長春軌道客車股份有限公司」(中国吉林省長春市)。総額50億バーツというビッグプロジェクトだった。

車両の引き渡しは16年7月から始まった。まず39両がタイに到着し、バンコク~チェンマイ間で試運転を重ねた。11月にはチェンマイ区間とバンコク~ウボンラーチャターニー間で営業運転を開始。12月からは、ラオス・ビエンチャンに近い東北部ノーンカーイと南部の商都ハートヤイ(ハジャイ)とをそれぞれ結ぶバンコク発着の路線が運行を始めた。現在もこの主要長距離4路線で、寝台列車として日々営業を続けている。

115両の内訳は、個室タイプの1等寝台(1室定員2人)が9両、2等寝台が88両、バリアフリー車両が9両、食堂車が9両。タイ国鉄によると本格的なバリアフリー車両は初めての導入だといい、食堂車には売店も併設されている。各車両にフリーWiFiも完備されている。

運行所用時間は、チェンマイ区間(751.4キロ)が約13時間、ウボンラーチャターニー区間(575.1キロ)が約10時間、ノーンカーイ区間(621.1キロ)が約11時間、ハートヤイ区間(944.6キロ)が約16時間。それぞれ、ウタラウィッティー号、イサーンワッタナー号、イサーンマンダー号、タクシナラット号というニックネーム(愛称)も付けられている。(つづく)

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