泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第43回 『設計技術者の採用と育成』
タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は、今タイにもっとも必要といわれる設計技術者の育成に焦点を当て、タイ・スタンレー社の設計技術者採用・人材育成をご紹介します。なお、前号に続き、タイ東レグループのグローバル人材育成例も紹介させていただきます。(本稿は、2015年にTNIで実施したJセミナーの発表事例を基にしたもので、文責は筆者にあります)
タイ・スタンレー電気社における設計技術者の採用と育成 パイロー ・ジョンミピャン 研究開発センター 副所長
1.会社概要
わが社は、1980年に設立、翌年電球工場創業以来、自動車・バイク照明や電子機器を製造。主な市場はタイ国内が8割で、日本、米国、アセアンなどが2割。R&Dから金型工場、電装工場、品質保証、営業まで全ての機能をバンコク郊外のパトムタニー県に集め、日本本社・工場とも連携し、アセアンやインドの8つの会社の拠点となっている。従業員は2015年7月現在3,084人。
2.R&Dセンターの業務
私の所属する研究開発センターは、自動車やオートバイクの照明器具及びランプを設計・開発しており、生産のために、設計モデリングから得意先と試作品を作成して仕様を確定する。主な得意先は日系企業なので日本語力は重要。外部から先生に来てもらい、設計では毎日もしくは仕事中に半日、他は週2回夕方5時以後に教育している。40人のスタッフで、日本人は3人。TNI出身の設計業務担当は5人で、1人は日本に出向中。なお、タイ・スタンレー社でTNI出身者は約20人いる。同席するナタポン君は、いま下記表のレベル3段階で、設計者の道を歩んでいる。
ナタポン氏(TNI工学部自動車工学科を2年前に卒業)のコメント:カティアなどをTNIで学び、ランプ設計に役立った。早く一人前になり、会社に貢献したい。
3.設計者の5段階レベル
設計技術者の5段階のレベル | |||||
研修生
技術知識習得期間 |
レベル3
開発過程習得期間 |
レベル2 | レベル1 | 設計リーダー | |
設計者としての資格要件と任務 | ・将来の利益を創造するキーワードを理解
・設計技術・知識の理解
|
・利益を想像できる構造を理解
・中堅スタッフとリーダーからの指示で業務を遂行 ・予定の開発期間内に業務を遂行 |
・利益を創造する志向
・ローカルスタッフとして中堅スタッフとリーダーの指示で業務を遂行 ・開発時間削減を考慮して仕事ができる |
・具体的な設計品質で利益に貢献
・一人前の仕事ができる ・設計リーダーの下でグローバル業務を遂行 ・開発製品のQCD(品質・コスト・納期)目標を達成 |
・どのような状況下でも製品開発で利益を創造
・専門家としてグローバル業務を推進 ・設計者の人材育成 |
必要な資質 | ・設計者としての意欲と向上心
・設計に必要な知識と技能を理解 |
・上司の指示で設計業務が可能
・開発フローの理解 ・製品コストの理解 |
・Cランクの開発仕様を仕上げることができる
・上司の指示でBランク以上の設計ができる |
・ABランクの開発仕様を仕上げることができる
・顧客の求めに応じ新技術を提案できる ・ROI(投資収益率)と費用削減提案を理解して採算性を改善 |
・新技術製品の仕様を確定
・Aランク以上の新製品開発・工程開発 ・業務成果レポートの提出 |
- 第1は、研修生のレベルで、大学の技術関係の卒業者を採用し、「設計塾」を開き、約半年間、設計基礎教育をする。TNIでの金型組立て、キャティアの知識は役立つ。
- レベル3の設計者は社内試験合格後、管理者や上司の指示の下でシンプルなランプを設計・開発する。ランプ設計担当は、入社後3年間ぐらいの段階。
- こうして実際の設計の経験を積むとレベル2の設計者認定試験を受ける。スタンダートなランプを設計して開発ができるようになる。レベル2の試験を合格したら、日本のスタンレー社に出向、1年は日本語習得を含む期間で、その後、日本人スタッフと得意先の対応をしてランプ開発を行う。合計2年間の作業経験で、貴重な経験になる。(なお金型研修などではHIDAの研修支援制度を利用して、9カ月の研修をする)。
- リーダーレベルでは、外国人や日本人やタイ人の得意先と連携できて得意先と生産の仕様を確定できるレベル。
4.設計技術者の訓練と専門キーワード
○入社後まず、内部の作業システムを理解するように3カ月でOJT職業訓練を実施する。その後、4カ月の基礎および技術研修があり、2週間のブラッシュアップ研修を2回実施する。R&Dの設計レベルでは設計理論や材料特徴を教育する。
○スタンレーグループの設計者ネットワークは、日本が第1の拠点で、タイ・スタンレーは第2になり、アセアン・インド・アメリカを結ぶ。多くの国で設計部門があるが、設計能力が足りない場合、技術者を移動して支援する。以下は設計技術者に必要なコンピュータグラフィック技術、三次元データを処理する設計開発技術などである。なお専門的な知識を育成し資格を取得するには次のようなスキルが必要になる:1論理的な思考力、2 勉強・努力、3 創造的思考力、4キャティア・プログラム力、5協力・連携力。
- コンピュータ・エイド・エンジニアリング(CAE):ランプ開発は、各国の法規に応じた配光設計をすることが必要で、スクリーンと路面に照射して配光パターンを確認する。
- CGによるヘッドランプの路面の光のパターンを確認。
- 射出成形シミュレーション: 金型の本型で生産する前に、樹脂の流れを確認。
- 構造分析:量産する前に、各固定部位の強度を確認。
- 熱解析シミュレーション: 使用される材料の耐熱性を解析。
タイ東レグループにおけるTNI生採用と活躍の状況(前号に続く)堀野 泰佑・東レタイランド社 人事総務アドバイザー
3.東レのグローバル人材育成と今後のTNI生の採用と育成
右図は、東レのグローバル人材育成方針で、グローバルに活躍できる人材育成体系を整備してナショナルスタッフを育成している。将来のタイ東レグループを支える人材が育つことで、企業もまた育つ。
TNI生も、将来は経営幹部ならびに各機能(営業や生産)の中心となって、タイ国内はもちろんグローバルに活躍してほしいと願っている。TNI生への期待なども図表をご参照いただきたい。