タカハシ社長の南国奮闘録
第52話 先代の挑戦
癌を克服した先代(高橋弘和氏)は、自身の会社で新たな事業を開始した。それは、スクラップの圧縮装置の製造販売。御年75歳での挑戦だ。
今までもそうであったが、「不景気だからこそ何かを生み出す」という発想が根底にある。先代は、戦後の何もない時代からドルショック、オイルショックを乗り越え、バブル崩壊まで神話のごとく昇っていく時代を生きてきた。この世代の人たちは、(40代の我々も含む)若い世代には想像もつかないような「未来を描く力」を持っている。必ず良くなると予測して、希望に満ちあふれているのだ。だからこそ次々と道を切り開き、前進していけるのだと思う。タイにおいてもまさにその感覚が通用するのだろう。
ただ、私の感覚は少し違っており、この状況下で新製品を世に送り出すのは危険だと感じてしまう。確かに今年は景気が少しは上向くだろうが、緩やかに落ちていった分、上がり方も緩やかで、まだ2、3年は以前のような回復感は得られないと予測している。
しかも、スクラップの値段は落ちたままだ。油を離脱させるので環境には良いと思うが、どうしても必要なものでなければ後回しになる。会社を徐々に大きくする年輪経営を目指すと、売れていくまでのサイクルやメンテナンス、仕掛かり、仕入れを考えたら……どうしても躊躇してしまう。
しかし、先代はそれをものともしない経営スタンスで、売れることを夢見て、丹誠込めて製品化に勤しんでいる。
高橋家は平家の流れを受け、戦国時代は北九州の大伴氏に仕え、その後、江戸に流れて徳川に仕えた。そして大正元年、高橋富吉(創業者)が名古屋で事業を興したのが会社の始まりだ。
私は4代目社長を受け継いで15年になる。先代のチャレンジ精神で足がかりを作って頂き、タイに進出して10年、弟の頑張りもあってここまで来ることが出来た。思えば先代も、技術面に優れていた弟の存在があってこそ思いを形にすることができたのだと思う。支えてくれた家族には、今になって感謝の気持ちでいっぱいだ。
先代の新たな挑戦に対して私が出来ることは、製品の情報を広めることや、顧客の紹介を手助けすることぐらいだが、やりがいのある仕事を通じて、ますます健康に過ごしてもらえるよう願っています。