タイ企業動向
第62回 「新型コロナ感染タイ国内の記録⑩」
抑制下にあると見られていたタイの新型コロナウイルスが年末年始にかけ「第2波」を迎えた。感染源はバンコク西郊サムットサーコーン県の水産市場。密になって暮らすミャンマー人コミュニティーで集団感染(クラスター)が発生した。その余波は瞬く間に全土に広がり、1月10日現在で4分の3の58都県にまで拡大。政府は非常事態宣言を延長してバンコクの飲食店や娯楽施設などを閉鎖した。2月中の収束を目指すものの、回復の兆しが見え始めた経済への影響は計り知れない。財務省も財源難を理由に給付金の限定支給を検討するなど対策にもほころびが見え始めている。タイ経済はどこへ行くのか。企業活動への影響は。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)
第1波よりも深刻だ――。政府の新型コロナ感染症対策センターの担当者は1日当たり3桁の規模で増え続ける新規感染者のグラフを見てため息をついた。11月まではどんなに多くても10数人。しかも、ほとんどが外国からの入国者だった。11月下旬になって、ミャンマー東部タチレクの娯楽施設から感染したタイ人女性らが非正規ルートで帰国。10数人の2次感染者を出したが、懸命な追跡でそれ以上を防止。12月18日にはチェンライ県伝染病委員会が「安全宣言」を発表していた。 ところが、まさかのクラスター発生。場所はチェンライから直線で800キロ余り南下した水産の街マハーチャイ。かつては海で生きる猛者たちで賑わったこの街も近年は重労働が嫌われ、従事するのはもっぱら出稼ぎのミャンマー人労働者。彼らは本国への送金のため生活費を削り、密になって生活する。密入国者などが持ち込んだウイルスが増殖したとみられる。 驚愕するデータがある。第2波が始まって2週間余り経過した後に、タイ商工会議所大学が試算したタイ経済への損害額。全国一律ではなく、しかも感染リスクが高い施設に限定した都市封鎖(ロックダウン)に止まった場合でも、1カ月あたりのそれは約1000億バーツ(約3400億円)。感染が広がり政府が指定した「高度に管理された地域」28都県の国内総生産(GDP)がタイ全土の75%を占めることが、想定被害を大きく膨らませた。 2021年のGDP成長率を早くも下方修正する動きも出始めている。世界銀行は昨年11月時点で年5%前後としていた今年の成長率を2月中には改定する見通しだ。前年同期比12.2%減を記録した昨年第2四半期(4月~6月)並みとなるとの試算もあり、慎重に分析が続けられている。年2桁の下落となれば1997年のアジア通貨危機を凌ぐ経済危機となる。21年の住宅供給戸数も過去10数年で最低となると予想される。 政府は国内旅行振興策を停止させ、保健省に追加予算47億バーツを割り当てたほか、電気・水道料金を引き下げ、政府系銀行が高リスク28都県の債務者の返済猶予を決めるなど対策に本腰を入れる。摘発を恐れ名乗り出ない不法就労の外国人労働者にも免責を約してコロナ検査を促している。問題は第1波で傷ついた企業活動がどこまで耐えうるかだ。その答えは間もなく出される見通しだ。(数値などは1月10日時点。つづく)
2021年2月1日掲載