タカハシ社長の南国奮闘録

第111話 言わぬは言うに優る

先月号で書いた「社員に社長の思いを伝えること」を今も実行している。私は元来、おしゃべりが大好きなのだが、丁寧に話すこと、伝えることが苦手なため、思いを伝える活動をする中でも、相手を不機嫌にさせてしまったり、言いたいことが思うように伝わらず苦戦したりしている。  思い返せば、今まで自分の発した言葉でいくつもの問題を起こしてしまっていた。最近でいうと、派遣社員さんに辞めてもらおうと思い、電話で派遣会社の人と話した際、相手を不機嫌にさせてしまった。話す前から相手に対してマイナスな気持ちのまま、顔の見えない電話で不機嫌な声のトーン、良くない言葉使いが出てしまったのだろう。マイナスな気持ちがこもった言葉は相手に伝わり、結果、怒りを買ってしまった。  そんな私にかつて「言わぬは言うに優る」という言葉を教えてくれた人がいた。私は長年、その意味を理解できなかった。なぜなら思いや気持ちは言葉にして発しないと伝わらないと思っていたからだ。しかし最近になって、言葉には「必要な言葉」と「要らざる言葉」があるのだと知った。  相手を傷つける言葉、マイナス言葉、否定的な言葉、自分を良く見せるために言う言葉などは「要らざる言葉」である。私は人と話すとき、つい自分の言いたいことを優先してしまう。しかも人の話をさえぎって話の流れを変えてしまう。話している人は自分の話を強制終了させられてしまうのだ。  そのことに気づいてから、自分の話を優先しない、人の話を大切にする、マイナスな感情を表に出しすぎない、具体的に話す、ということを心掛けるようになった。これを意識しだしてから、周りが私の話に耳を傾けてくれるようになった。発する言葉が少なくなったのに、それまでよりも思いがきちんと伝わっている。不思議な話だが、追われると逃げる心理と似ているのかもしれない。  確かに思いは言葉にしなければ伝わらないが、「要らざる言葉」を省き「必要な言葉」を丁寧に伝えることが大切なのだと知った。しかし、頭の中だけで必要な言葉を選び、伝えたとしても限界がある。最も重要なのは自分の心根だ。言葉には言霊が宿っている。自分の心を映し出す鏡であり、自分の心が最も重要なのだ。  いくら表面上の言葉を変えたって、自分の心根を変えない限り発する言葉は変わらない。人の心は言葉に宿されて相手に伝わる。自分の発する言葉が相手を喜ばすこともあるし、自らの値打ちを下げることもある。  コミュニケーションのほとんどは会話である。オンライン化が進む世の中で、人とのつながりの濃さはいかに相手を大切にできるかで決まる。どんな状況下でも、相手を大切に思う気持ちを言葉に乗せて伝えていきたい。

21年04月01日掲載

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