タカハシ社長の南国奮闘録

第115話 会社のDNAを未来に繋ぐ

最近、歳の近い知人が亡くなったことで、ずいぶん昔にある先輩から聞いた言葉を思い出した。
「経営者の仕事は事業を育むこと、そして後に繋ぐこと。繋ぎ終えることができなければ半人前だ」
人はいつか必ず死ぬ。私にも間違いなくお迎えが来る。私に何かあった時、まわりに迷惑をかけないだろうか。ちゃんと会社を守れるのか。社員に動揺はないだろうか。そして、残された妻や子どもたちへの影響はないだろうか。もし私が余命宣告を受けて、亡くなるまでに半年とか三年あれば、それなりに準備もできるだろうし周りも覚悟できるだろう。
ある友人は死期を悟り、数ヶ月で準備したそうだ。その友人の葬式で、後継者に当たる息子さんは立派に気丈に振る舞っていた。とても逞しく、この先の事業も安心できるなと思えた。しかし、もしある日突然、心臓が止まったり、事故に遭ったり、コロナのような疫病にかかったりして死んでしまえば、最後に家族にも会えず、何かを伝えたくても伝えられぬまま終わってしまう。
やはり事業継承は、残された家族と会社のために必要だと深く感じた。私が先代から会社を譲っていただいてから20年になる。先代は今も健在だ。タイで元気に暮らしている。先代はバトンを渡し終えたといえる。これは先代の功績だ。株もすべて購入させていただいた。要するに親子M&Aだったのだ。その方法が私にとっては結果的に良かった。そうしたことで私は自分の会社だという自覚を持ち、自由に会社の構想を練ることができた。
もちろん、その資金を稼ぐために必死に働いた。時期的に追い風ということもありスムーズにことが進んだ。ただ、同じことがこの先の代でも通用するかはよく考えないといけない。技能や資産も重要な継承かもしれないが、一番大切なのはどんな在り方で会社を経営するかという理念や思いを伝え残すことだ。例えば、テクニアらしい本学とともにアイデンティティを残したい。その中で、一子相伝ではないが高橋家らしい家の在り方、事業のあり方を形にして伝えていきたい。
この度、日本のものづくりを町工場から変えるという会を立ち上げた。この志も創業者からのDNAによるものだと考えて、言葉にして形にしてみることにした。私の四代目としての使命は、創業者の思いを形にし、言葉にして後世に繋ぐことである。  この行動が、孫の代までものづくり業界が続いていく社会作りの第一歩だと思っている。しかし、この思いも私の代で終わってしまえば社会は変えられない。だからこそ、志を引き継いでくれる後継者が大切なのだ。私がバトンを渡すとしたら、下記の思いを大切にしてくれる人である。
一つ目は、社員を思う気持ちが私を越えていると感じられること。二つ目は、目の前の人だけでなく会ったことのない創業者の思いまでも考え形にできること。三つ目は、自分の会社だけでなくものづくり業界の未来を大切にできること。
会社の経営は簡単なことではないが、志があれば人脈が広がって大きな力となり、それが会社存続の根幹になるのだ。私は一人前の経営者となるために、この思いを繋いでいきたい。

2021年11月1日掲載

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