タイ企業動向

第10回タイで進むFA導入の今日的状況

自動化などにより人の手の数を減らし、産業の高度化へとつなげていくのが生産現場におけるファクトリー・オートメーション(FA)。ベルトコンベアー化やロボット導入などかつては個々の生産工程の自動化を指す概念として主に使われてきたが、さらなるコスト削減の要請や地球規模での環境機運の高まりなどから、そのものが示す言葉の意味も時代とともに広がりを見せている。省力化、省人化、省エネ、見える化…。近年は工場やオフィスといった施設そのものまでをも対象として語られるようにもなった。拡大するFAの概念と技術の進歩。産業集積地タイの現場で今、どのような動きが広がっているのかを概観する。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀 晋一)

 

タイの生産現場で40年以上もの長きにわたり産業の下支えとなるFA事業に取り組んできたのが、大手家電メーカー三菱電機グループの現地法人MITSUBISHI ELECTRIC FACTORY AUTOMATION (THAILAND) CO.,LTD.だ。労働集約型の製造ラインにいち早くロボットを投入。自動化を実現するなどその仕事ぶりにはかねてより定評があった。ところが、製品や技術がより高度化し高付加価値化が求められるようになると、もはやロボット一台一台では対応も限界に。タイの労働市場における賃金の上昇もあって、より高いコスト削減と俯瞰的で総合的なFA事業の構築が急務となった。

こうした中で生まれたのが、工場内の各種設備と生産情報とを間断なく連携させたFA統合ソリューションシステム「e-F@actory(イー・ファクトリー)」だった。生産設備と製造実行システム(MES)とを通信ゲートウェイを介さずに直接接続。生産現場では各所に配置されたシーケンサ(PLC)と呼ばれる各種デバイスが末端センサーから得られた情報と連携し、生産の最適化を実現させていく。これにより開発から立ち上げ、工程数の短縮や生産設備の高性能化・高度化までをトータルでサポートすることが可能に。見事なまでのFAとITの統合だった。

同時に、省エネ支援機器と呼ばれる計測機器群が施設内にある設備やラインなどの電力使用量を詳細に計測。これを生産情報と合わせてデータベースに蓄積・解析することで工場全体の消費エネルギーがリアルタイムで把握できるようにもなった。エネルギー使用のあり方が分かれば無駄な支出も抑制できる。生産の高度化からエネルギー消費の管理まで。工場内がトータルで丸ごと「見える化」されることにより、生産から保守・運用までの総事業コスト(Total Cost of Ownership = TCO)を大幅に抑えることが可能となった。

 

IoT(Internet of Things)。「モノのインターネット」と和訳されるそれは、製造・測定・制御機器にとどまらず、あらゆるモノをインターネットに接続。相互に情報交換させることで稼働状況を詳細に把握し、運用の最適化を図るというものだ。コンピュータ同士を結ぶユビキタスネットワークの後継と位置付けられており、FA化推進の大きな切り札としても期待が持たれている。だが、ここタイでは不確定要素も多く費用対効果の算出も現時点では難しいところ。初期投資額やその範囲も明らかではなく、関心を持たれながらも多くの企業で模様眺めであるのが実情だ。

こうした中、製造業向け情報システムの東洋ビジネスエンジニアリング(タイ)が積層信号灯を使ったIoTサービスを開始し注目を集めている。大阪の信号灯メーカー・パトライト社製品を採用。これを工場内の機器などに設置し稼働状況を記録、オペレーションの効率化を支援する。通信にはワイヤレス・データ通信システムを採用。面倒な配線工事もなく、導入コストも軽減できるというのが大きな特徴だ。FA市場の今後にも大きく影響を与えるとされる同社の取り組み。「知らせる信号灯から、記録する信号灯へ」。ラインの「見える化」によって多くの現場で生産の改善が進むことが期待されている。

 

FAの現場で培ったノウハウが商業向けに転用された事例もある。大型商業施設などが建ち並ぶバンコク中心部ラチャプラソン交差点。その一角に1984年完工の大型複合ビル「アマリンプラザ」がある。ショッピングモールやオフィスが入居する高層ビル。竣工から満30年を超え抜本的な省エネ対策の見直しが必要となる中、これを受注したのが日本を代表する制御・計測機器メーカー「アズビル」のタイ法人だった。建物全体で消費されるエネルギーを最小に抑えるためのアズビルの持つ技術に白羽の矢が立った。

実施を経て効果がなければ、その費用をアズビル側が負担するという画期的な「効果保証型エネルギーサービス」も盛り込まれた。確かな技術や経験がなければ達成不可能なだけに、その自信のほどが見て取れる。ここまでできる事業者は、まだタイでは数が少ない。

20年を超えた同社のタイ事業。当初は、生産工場内に計測・測定機器などを納入するのが業務の中心だった。ところが、ここタイは自動車などの産業が連なる製造業の集積地。日系企業を中心に高精度製品の生産が盛んとなり、自ずとこれを計測する精密測定器と生産効率を高める自動制御システムの導入も必要とされていった。こうした中で顧客が求めるものも「使えるもの」から、いつしか「効果が見えるもの」に変わっていった。

アマリンプラザの受注は、生産現場におけるFA化要求の構図が広く実社会に応用可能なことを意味している。ここでも顧客のニーズは単なる局所的な改善要求から、総合的なコスト削減へと移行をしていることが読み取れる。全てにおいて「見える化」という商品が求められる時代。製造業が成熟期を迎えたタイで、FAをキーとした新たな事業開拓への模索が続いている。(つづく)

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