タイランド4.0時代の消費者とは? デジタル化への対応がカギ

消費者の持つ志向と展望を理解することが、企業およびマーケティング担当者の基本姿勢となるだろう。消費者心理の動きをつかむためである。過去数年間、世界の消費者の動向は実に多次元的に変化している。健康志向が強まり、またサービス消費の額が増えてきた。商品では差異化の大きいものが好まれている。これらがトレンドであるが、タイを含めてオンライン取引の流れが勢いを増している。

文・Bussayarat Tonjan

進む高齢化と健康への関心

世界的な国際会計事務所のタイ拠点、デロイトタイランドのナレン・チュティジラウォン事業開発部部長は「弊社の調査をまとめますと、高齢化社会の進行と健康関連のニーズの増大という2つのトレンドがはっきり出ています。ビジネスないしは経済に対する影響がいよいよ強まってきました。タイは来年、高齢者の人口が1,050万人となり、全体の16%を占めます。さらに5年後には1,230万人に達するでしょう」と語る。

今後、健康管理費および医療費が増える一方、スポーツなど健康関連の消費も進む。それに伴って高齢者ケア、薬局、健康補助食品販売、医療機器販売、健康用具販売などの事業のチャンスが高まる。 デジタル技術の普及によって、卸・小売店での販売からオンライン取引に多くの商品販売がシフトしてきている。タイ人の購買手段もインターネットを通じたものに変化してきた。電子決算システム「プロムペイ」やインターネットバンキング、その他信頼できる携帯電話のアプリケーションが使われている。

「手間がかからず、各種の無駄なコストがかかりません。また企業間においてもオンライン取引が広がっており、日用品販売、商品輸送、ITサービスなどの事業で勢いが増しています。消費者に利便・快適をもたらすEコマースが、ニーズに乗って伸びています。注文から入手するまで外に出る必要がなく、消費者が買物に出かける行動が減少しています。買い物に行く途中で気が変わるということもなくなりました。バーチャル・リアリティー(VR)や拡張現実(AR)技術の発達で、画面を見ながらでも買物の確実性への信頼が強まりました」。

さらにIoT技術が発達して各種の機器との接続が広がり、インターネットはもはや生活環境に不可欠なメカニズムの位置を占めるようになっている。2020年にはIoT関連機器が現在の3倍に増えると予想されている。とりわけ住宅分野の機器は68%増、自動車分野の機器は55%増と見込まれている。新時代の製造業のイノベーションは、3Dプリンティングをはじめ、各種の新たなニーズが主導して小刻みな変化を続けて止まない。きっかけとなるのが消費者の視線が向くか否かだ。

ナレン氏は続けて語る。「消費者はデジタル技術の導入を強く求めています。人間の生活により多くのテクノロジーが入り込んでくると見ています」。これまでも消費者の志向は実に多元的な動きを示してきた。テクノロジーの応用とともに迅速に結果が出ていた。今はどのビジネスでも、差別化、個性が必要になり、さらにより使い勝手の良いことが消費者から求められている。

「消費者のニーズは錯綜しています。川下の小売業のデータからは消費者と密着した様子が把握できますが、川上のメーカーでは消費者が求める設計のデータが得られます。セグメント別の傾向が把握できます。さらに総合的なビッグデータは各種の技術の応用により、在庫管理、価格決定から実用的なマーケティング戦略まで利用可能です。このような時代はブランド力が上がったとしても油断はできません。ブランドに対する顧客の忠誠心をいかにしてつなぎとめるか、に努力することが必要です。これは新規顧客の開拓と同じく、実に重要なことです。顧客のニーズに統合的に対処する経営管理システムの開発が求められます。顧客により良い体験を積ませることが、大事なポイントになります。これは顧客をリピートさせる要点です。また良いアフターサービスも顧客を逃がさない要点になります」。

相次ぐ新規ショッピングセンター開設

大手財閥TCCグループの不動産子会社アセットワールドエステート傘下でゲートウェイショッピングセンターを運営するアセットワールドリテールのナパット・ジャルンクン事業部長は「当社の各種プロジェクト、ショッピングセンター各店を運営した経験から見るに、バンコク首都圏の小売り事業はこの1、2年間にいよいよ増進するでしょう。同分野の企業は、差別化をしっかりうちだして来店する消費者の心をつかまなくてはなりません。大都市での出店意欲は、観光客の増大傾向と相まって、少しも衰えていません。タイのリテール産業の新次元が切り開かれる底力は、大都市の持つ巨大投資の吸引力にあるでしょう。

同社は11月、バンスーで新たにコミュニティーショッピングモールをプラットフォームとしたゲートウェイショッピングセンターをオープンさせた。敷地は10ライ。11階建てでフロア面積は95,000平方メートル、1,100台収容の駐車場を設けている。テナントエリアは39,000平方メートルで400店舗が出店できる。現在(取材時点)、ショッピング・モール全体の進捗は、建物が90%完成し、テナントは95%埋まっている。バンスー界隈ないしはその周辺の住民がターゲット顧客になる。「バンスーは実にバンコク北部の重要な商業エリアです。世帯当たりの月収が7万バーツで十分に豊かな購買力が期待されます」。

ショッピングセンターには顧客の欲する多種多様な商品を集めた。ライフスタイル全般から子供用品、オフィス、エンターテンメントなどの各種のゾーンを設定。ビッグC、フードプレイス、メジャーシネプレックス、ホームプロS、ザ・パワーライフ、ハーバーランドらも入居する。バンスー店の次には、バンプリーでタワンナ・ブランドのプロジェクトの開発を進めており、来年の第3四半期にオープン予定。来年、詳細が発表される。

ナパット氏は「バンコク首都圏には、ショッピングセンターの好適地がまだまだあります。社会が発達して消費者は日頃のニーズに適合した商品を“あれば買う”というスタイルで欲しています。いずれにせよ、タイの消費者は一味違ったものを欲しがり、新たな消費体験を求めて、選択肢が多いことを喜びます。高品質の商品、サービスを求めることは言うまでもありません。健康志向、差別化志向を焦点に、錯綜して発達する消費者志向をつかまなければなりません。その分野のプロである専門店の動きも注目されます。コンビニエンスストアもより利便性を増しています。オンライン取引の拡大に対して、店頭のバラエティーの開発も求められます。ショッピングセンターは実にリテールエンターテイメントのセンターへと変革を迫られていると痛切に感じます。ワンストップショッピングだけではまだ平面的です。消費者はショッピングセンターに対して、単なる買い物の場だけではなく、リラックスする場、友人と出会う場、各種エンターテイメントを体験する場、というマルチな中身を求めています」と語る。

同じく11月には、最大財閥CPグループ系の不動産会社マグノリアクオリティデベロップメントなどが出資する事業会社が開発したアイコンサイアムが、チャオプラヤー川沿いにオープンしている。日本の百貨店、高島屋の1号店や高級コンドミニアムなどが入居する。投資額は540億バーツ。プロジェクト全体の延べ床面積は75万平方メートルにおよぶ。これまで開発が遅れていたチャオプラヤー川西岸という立地で、顧客をどこまで確保できるか注目される。セントラル百貨店などを展開する大手セントラルグループは今年の売上高の目標を約4,000億バーツに置く。今後も国内外でショッピングセンターを開設し、2022年までに売上8,000億バーツを目指すとしている。相次ぐ大型投資の一方で、東急百貨店は2015年にタイで2店舗目として開業したパラダイスパーク店を、2019年1月で閉店すると発表。業績が伸び悩んだためとみられる。

年間4,000万人近い観光客に加え、増加する中間層。魅力ある市場ゆえに、競争もまた一段と激化している。

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