タイ経済2020年の展望
底堅く推移するも楽観できない見通し

2020年のタイ経済の歩みにはプラス要因とマイナス要因がついてまわるだろう。まず、輸出に対する米中貿易戦争の影響からは逃れられない。通商相手国の経済不振も好転せず、その他のマイナス要因も2020年のタイ経済の成長をはばむ。  最近、タイ政府および金融機関は、経済成長に対するマイナス要因の影響力を測定している。世界経済の動向に対処しつつ事業家の準備と変革を促すのが狙いだ。  工業生産指数は増加傾向にある。工業省工業経済局のデータは、2020年の工業生産指数(MPI)は2-3%増、工業セクターのGDPは1.5-2.5%増と予測する。これらは政府の経済刺激策の効果を織り込んだものである。また資本のタイへの移転もプラスとなる。

主要産業の傾向

食品産業  MPIは1.2-1.5%増、輸出は2.7-3%増。海外の需要増が大きなプラス要因となり、日本市場は東京オリンピックが開かれ需要が伸びる。また中国からの冷凍冷蔵鶏肉の注文が増えている。これは2018年にタイの鶏肉加工工場の食品安全性の中国による承認が増えたことによる。

電機エレクトロニクス産業  エレクトロニクス部門の景気循環の波が上向くサイクルとなる。回復が始まりMPIは1.6%増、輸出は1.5%増。

自動車産業  自動車生産は前年並みとみる。

石油化学産業  微増にとどまる見込み。中国、日本、ベトナムなどアジア市場がなお不振で、プラス要因は多くない。価格の低迷、輸出不振が足を引っ張る。

ゴム加工産業  タイヤ生産は1.27%増程度で、海外市場の成長による。国内販売はリプレイスメント市場の縮小により0.82%増程度。国内のゴム手袋は3.04%増、海外向けは2.91%増の見込み。内外ともに需要が伸びていく状況が予想される。

プラスチック産業  プラスチックの生産は1.33%増の微増、輸出は4.06%増とみる。米国市場はプラスチックの主要な市場だが、米国のGSP(一般特恵関税制度)が3月には適用されなくなる。

化学製品産業  化学製品の生産は2.18%増、輸出は2.09%増とみる。原油価格の上下が生産・輸出に影響するほか、バーツ高の進行も影響する。米中貿易戦争は引き続きサプライチェーンを脅かし、世界経済の足を引っ張るだろう。

鉄鋼産業  国内の鉄鋼生産・消費は前年比微増とみる。建設業の好調、政府の大型基礎構造建設の進展、特にEECエリアでの基礎構造プロジェクト、鉄道敷設プロジェクトが牽引する。

衣料テキスタイル・製糸・織布・服飾産業  人工繊維の中国市場への輸出、完成衣服の日本とEU圏への輸出が支えとなり、全体的に微増となる見込み。海外から安価な素材の輸入が増え、国産素材は一部委縮傾向となるだろう。

国家経済社会開発委員会の予測

国家経済社会開発委員会(NESDC)のデータによると、2020年の輸出高は2.7-3.7%増となる見込み。世帯消費に加え、民間投資や公共支出も伸びてプラス要因となる。世界経済はスローペースながらも成長し、非関税障壁のハードルも緩和に向かう。政府の経済政策の発動、観光業の改革も実を結ぶだろう。  輸出総額は2.3%増、民間消費は3.7%増、投資総額は4.8%増、インフレ率は0.5-1.5%とみられる。貿易黒字はGDPの5.6%レベル。NESDCは2020年のタイ経済についてさらに詳しく言及した。要点は以下の通り。

1. 民間の日用品・飲食品の消費は3.7%増となり、2018年の4.3%増よりも鈍化する。これは前年の分母、特に上半期のレベルが高いことによる。前年上半期は耐久消費財の自動車の販売が好調だった。民間消費の伸び率は悪くなく、低金利、低インフレ率、低失業率が下支えしている。加えて政府の低所得者支援策が効いている。政府の支出は2.6%増で、2019年の2.2%増より増えるだろう。2020年度予算の歳出は前年度よりも3.9%増えており、同一歩調となる。

2. 官民の投資は4.8%増となり、2019年の2.7%増より一気に増える。特に政府の投資は2.3%増から6.5%増と顕著だが、2020年度予算の歳出増と同一歩調で前年度の投資額より18.9%増となる。民間投資は前年の2.8%増から4.2%増となり、順調な投資ベースが支えることになる。  EECエリアでの認可申請が増えており、全体のプロジェクト認可申請の増加を牽引している。官民パートナーシップ(PPP)の認可申請も増えている。加えて非関税障壁の損失をかわすため、外資企業の生産工場が海外から移転してくる。政府による外資誘致(税優遇)はいよいよ鮮明になっている。

3. 商品輸出額はドル建てで2.3%増の予想で、2019年の2.0%増より良くなる。数量的には2.4%増となり、前年の2.3%増よりも増える。スローペースではあるが上向き傾向となる。  国際通商・世界経済もゆっくりと上向いている。商品・サービスの輸出は2019年の0.7%から改善し、収入増と外国人観光客の増加に合わせて2.5%増となるだろう。

 

タイ経済と世界の行方

サイアム商業銀行の調査部門(SCB EIC)は、2020年の成長率は鈍化が続くとみる。米中貿易戦争の影響がさらに強まるためである。多くの国が金融緩和政策を採っており、経済成長を支える財政政策も視野に入れてきている。  世界経済の減速、それに沿った各国の金融政策で、国際通商は伸び悩むだろう。米中貿易戦争のもたらすリスクがどこでどういう表れ方をするか、ますます予測不可能となっている。  新たなリスクも世界各地に拡散している。香港の抗議デモ、EU結束のほころび、中南米の政情不安、日韓関係の悪化など、世界のほとんどの地域が紛争の種を抱えており、世界経済の成長の足を引っ張っている。米中貿易戦争は何よりも新たな投資活動のリスクを高めており、製造業と輸出産業のベースを揺るがしている。焦点は関税障壁競争で、供給網(サプライチェーン)への影響が国際通商の動きを鈍化させている。  またSCB EICは、2020年のタイ経済が避けられない3つのリスクを挙げている。米中貿易戦争と両国間の基本的な矛盾、ブレグジットと中東諸国の矛盾、局地的な個々の紛争の3つである。  2020年のタイ経済はどこへ向かうのか。まず世界経済の成長率の鈍化からは目が離せない。バーツ高の継続も大きなリスクである。タイにとっては米国のGSP(一般特恵関税制度)の期限切れも大きな逆風となる。米中貿易戦争の衝撃は言うまでもない。  以上の要因はすべてタイ経済、世界経済のリスク要因である。

 

2020年01月01日掲載

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