コロナ禍でイノベーションが加速 タイの医療ロボット開発

紫外線殺菌ロボット

国立科学技術開発庁は、チュラロンコン大学バイオ・遺伝子工学研究所と共に新型コロナウイルスの感染拡大防止策として殺菌ロボットの開発を進めている。  殺菌ロボットは遠隔操作の制御装置で前進、後退、左折、右折が可能。状況に応じて自在に位置決めを行える。300ワットの紫外線光電管を装備し、10~400nm(ナノメートル)の範囲で、肉眼では見えない周波数の電磁波を照射する。250nmの波長の長い紫外線C波を使用し、ウイルス、バクテリア、病原菌などのDNAを効果的に破壊し、拡散を止める。1~2メートルの距離から15~30分照射すれば、いつでもどこでも表面に付着したウイルスを殺せるこのロボットは、新型コロナウイルスを殲滅する強力な助っ人になると期待されている。

 

IT活用の遠隔医療ロボット

キングモンクット工科大学フィールド・ロボティクス研究所(FIBO)は、ITソリューション企業であるフォームス・シントロン社、シスコ・システムズ社、アドバンス・インフォメーション・テクノロジー社と、新型コロナウイルス関連医療に使用するサービスロボット「FIBO AGAINST COVID-19(省略FACO)」を共同開発した。  患者ケアの充実と、医療従事者と患者の接触を無くすことを目的に、以下3つのロボットが導入された。 (1)CARVER-Cab 2020a 病室の患者に食事、医薬品などを運搬する自動制御ロボット。食事のトレイは20人分運べる。作動中はヒドロキシル・ジェネレーターによりウイルス殺菌と空気清浄化が同時に行われる。 (2)SOFA 遠隔操作のディスプレイを完備したロボット。リモートで制御して、サーマルカメラで人の体温を確認できる。患者の目と舌をチェックする高性能ビデオカメラを搭載し、患者との対話も可能。検査データを病院の管理センターで医療データと照合できる。 (3)サービスロボット 特定のポイントまで医薬品や食事を運ぶ。管理センターからの遠隔操作で、ニーズのある患者に配送する。患者はロボットと対話して医師や看護師を呼ぶこともできる。  これらのロボットは全て病院のWi‐Fiシステムに接続されている。将来的には5G 2600 MHzテクノロジーと、26-28 GHzを使用する5Gを介したクラウドコンピューティングを導入して、ロボットの機能を完全に活用する予定。

忍者ロボットが登場

チュラロンコン大学工学部は“リスクを減らし効率を上げる”をコンセプトに「CU-RoboCovid」を作成した。患者と医師のコミュニケーションを充実させるのが狙いだ。「CU-RoboCovid」は、遠隔操作で配給行為をするPINTOロボット、テレプレゼンス検疫ロボット、忍者ロボットの3つを中心に医療をサポートする。

(1)PINTOロボット 遠隔画像通信のテレプレゼンス機能が付いた、食事・医薬品を運ぶ遠隔配給ロボット。コンパクトなので小回りが利き、患者のベッドの上に物資を置くこともできる。さらに補助機材を装着することで、医師・看護師の実際の医療行為が迅速に進む。患者のニーズを追加することで、素早いケアも可能になる。

(2)テレプレゼンス検疫ロボット 病室備え付けのカメラ付きロボットで、患者はボタンを押したり面倒な手続きをしたりすることなく、いつでもロボットを通じて医師・看護師と対話できる。患者と医療従事者との接触リスクも無くなるため、ゴム手袋やマスク、フェースシールドなどの医療用防具(PPE)の使用頻度も減らせる。

(3)忍者ロボット ビデオ会議システムを通じた医師と患者の通信用ロボット。質疑応答が可能で、医師は病室を訪ねることなく薬の処方が可能になる。遠隔操作によりロボットが検温、血圧、心電図など各種測定を行い、医師の元へのそれらのデータを送信することで、医師はただちに診断材料を得られる。

タマサート大の配送ロボット

タマサート大学工学部は、病院内における新型コロナウイルス感染リスクを減らすため、無人で病室に機材を運ぶ医療機器配送ロボット「THAM-ROBOT(タムロボット)」を開発した。コンセプトはソーシャルディスタンス(社会的距離)の維持。器材運搬用の台車をインテリジェントなロボットに進化させたイノベーションの成果である。  タムロボットは遠隔操作で自在に移動でき、動きを制御する装置は台車の下側に付いている。医師が病室へ行くこともなく、薬、食べ物の提供、検査試料(糞尿など)の採取を器用にこなす。病棟内だけでなく、屋外(平面上)で作動することも実証済みだ。タムロボットは現在、タマサート大学ランシットキャンパス内のタマサート大学病院内で実用されており、使用を希望する他の病院への普及も進んでいる。

チェンマイ大の看護ロボット

チェンマイ大学医学部の健康イノベーションセンターは、医師・看護師の感染リスクを減らす目的で看護助手ロボット「CMUアイヤラロボット」を開発した。コロナ患者をケアするこのロボットは、マハーラート・ナコンチェンマイ病院に導入される。  ロボット導入でマスク、手袋などの消費材の使用が減る一方、「身体の距離はとっても心の距離はとらない」を合言葉に医療チームと患者の間で活躍することになる。  CMUアイヤラロボットは水、食べ物、薬、衣料品に加え、2つのカメラによって日々の患者の状態を遠隔通信で医師・看護師に送る。カメラの1つは周囲を見て、もう1つは患者を診る。ゴミ缶や汚れた衣料品などを持ち帰ることもでき、ケアグループと患者とのコミュニケーションの道具にもなる。

AISは5Gをフル活用

通信最大手アドバンスト・インフォ・サービス(AIS)は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、病院に第5世代(5G)通信とロボットの導入を進めている。感染者を受け入れているバンコク首都圏の病院に5G通信網を整備し、検査・治療に使えるロボットを納入する。5Gはロボットや遠隔医療などに利用でき、医師・看護師の二次感染防止にも役立つ。ロボットは病院のニーズによってカスタマイズが可能。主な特徴は次の通り。  ①インフラレーダーシステム……身体各部の精密な検温データを5Gでただちに医師に送り、迅速な診断を可能にする。②3Dマッピング……ロボットの道案内を正確にし、病室を間違えないようにする。5Gネットワークに沿って自動的に精密な動きをこなす。③テレメディスン(遠隔医療監視)……ビデオ通話で医師が患者の診断・処方を行う。患者の部屋に直接入らず、ロボットを通して患者の状態を把握。④クラウドコンピューティング……病院ごとにロボットの可能性を普及させ、入院患者の病状を総合的に把握できる。血液検査の報告、医薬品等の配送、アルコールジェルの移動サービス等にも役立つ。  AISの研究・開発センターである「ロボティックス・ラボ」は、ロボット開発の可能性をさらに追求し、音声制御ロボット、自分で自分を掃除するロボット、オゾンや紫外線を供給するロボットなど、多様化を進めている。  医療ロボットは任務を記憶し、道に迷わず、各部署に患者を案内し、IoT、5Gにフルアクセスする。病院のツールを利用して情報収集を行い、データの食い違いやミスも発見する。またロボットが自ら往診することも可能になる。  タイのロボット技術がデジタルネットワークで各方面の先端技術と結合し、タイの医療をさらに進化させることが、速やかにコロナ禍を脱することにつながるのだ。

20年6月1日掲載

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