EEC開発で進むインフラ投資~ウタパオ国際空港、マプタプット工業港~

タイ政府の長期開発ビジョン「タイランド4.0」の中核として進められている、チョンブリ県、ラヨーン県、チャチュンサオ県を舞台にした東部経済回廊(EEC)プロジェクト。域内への各種の投資促進策のほか、インフラ整備も進められる予定だ。中でもラヨーン県はウタパオ国際空港とマプタプット工業港という2大インフラ拠点を抱え、タイ政府は空と海の玄関口としての機能を一段と高めようしている。

タイ政府は、元々海軍の航空基地だった軍民共用のウタパオ国際空港に、商業空港および航空機産業の集積地として役割を拡大させるつもりだ。国際的なビーチリゾートのパタヤから約40㎞の距離にあり、潜在的な民間需要は大きい。ウタパオ国際空港のダイレクター、ルーチャイ・シーイアムクーン氏は「タイは戦略的に有利な地の利を持っています。すなわちアジア地域の交通のハブに位置している点で、東南アジアの航空産業のメトロポリスとして開発できる可能性に満ちています。全部で1万ライ(1ライ=1,600平方メートル)を超える敷地は、航空機産業の各種の専門職の研修センターを付設するに十分な余裕があります。同時にまた航空機部品の工場を建てる余裕もあり、将来の地域レベルの生産基地に発展させることも可能です」と意欲を見せた。

それゆえウタパオ空港は国際空港として整備される。滑走路は国際標準、最新設備のターミナルビル、将来的に年間3,000万人を超えるビジネス客と観光客の利用を展望する。同時にまた相応の貨物輸送、ロジスティクスの機能を持たせる。また最新の航空機修理センターも付設する構想がある。航空機関連の事業拠点が集まり、充実するウタパオ空港は、ドンムアン空港、スワンナプーム空港とともにアジア地域の中核的な航空センターに変貌することだろう。

「ウタパオ国際空港関連のEECプロジェクトには、第2滑走路、ターミナルビル、570ライの航空機修理センター、倉庫と貨物専用機の駐機場、航空機関連の人材研修センターなどがあり、航空産業と航空機修理需要の伸びに対応する形で実現してくるでしょう。すでにコンサル会社に依頼して総合的なデータの収集、施設のグランド・デザインをマスタープランにまとめる作業を進めています」とルーチャイ氏は明かす。

昨年12月29日に1年間の調査の実施が合意され、今年の年末には総合的な結果が発表される見込みとなっている。もちろんその間にもプロジェクトごとに設計の青写真が出来上がってくる。また官民共同開発の際の法的な準備も進められる。1,000億バーツ台の巨額な資金を法制面で支えなければならない。青写真が次々にそろってくるとともに、共同出資企業の選定も進む。来年には実質的な投資が動き出す運びとなり、各種の構造物やビルは、2022~2023年に姿を現すことになるだろう。

スワンナプーム空港にも引けをとらないウタパオ空港の開発には、各種の付帯施設の充実が必要とされ、第2ターミナルの建設、現在の滑走路から1.6キロ離れた第2滑走路の開発、高速タクシーウェイの開発など利用者の利便の充実を第一として進められる。航空機修理センターには1億バーツ余りを投資する。エアバスが開発の主力となる。

「航空機関連の人材開発研修センターは2016年6月に一応の予算額が承認されました。しかし建材の値上がりなどが進んで、予算はその後、12億5,500万バーツから14億バーツに増額されています。昨年9月より進行が始まったウタパオ国際空港の開発予算は1,440億バーツでスタートし、エアバス航空機修理センターの予算は200億バーツと合わせて1,640億バーツのプロジェクトとなっています。ただウタパオ空港の開発はPPP方式なので、投資予算は民間からの資金となります。それゆえそれほどの巨額投資とはならないでしょう」。

 

 

石油化学産業が集積するマプタプット工業団地に隣接するマプタプット工業港も、EECプロジェクトで整備が進められる予定になっている。マプタプット工業港のナリニー・カンチャナーマイ事務所長は「開けた海に位置するマプタプット工業港の可能性については、政府がマプタプット工業団地の入居者向けのサービスを第1とさせる方針です。原材料、液体化学原料などの積み下ろしが主体となるでしょう。また港から工場までパイプラインによる直送サービスもあります。また原油のパイプラインもあり、石油精製施設に原油を直送しています。精製された石油製品を船積みするためのパイプラインもあり、迅速、快適、そして安全です」とアピールする。

また関連する政府の部署は、関税局、入国管理局、防疫チェックポイントなどが港内にオフィスを設置しており、常にサービス体制を整えている。港湾施設利用のニーズが増えており、タイ工業団地公団は1,000ライ規模の港湾施設第3フェーズの拡張を進めている。2015年に環境・健康影響評価に関する調査報告ができている。

マプタプット工業港の第3フェーズは、EECプロジェクトの重要な一環として組み込まれ、有力な輸送拠点ルートとして位置づけられている。1,000ライという規模は、液体、ガス製品の取り扱いと完璧なサービスを伴う、年間2,000万トンを処理する能力を視野に入れたもの。現在、環境・健康影響評価(EHIA)コー3の報告がパスして、有識者委員会で検討されている。

今年なかばには民間投資が基礎構造の建設と桟橋の構築に集中。110億バーツの予算を背景にし、埋め立てエリア造成と基礎、および埋め立てエリア上の貨物積み下ろし用桟橋の構築という2つのから成り立つ。投資家、民間企業の目下の関心は、埋め立てエリア造成およびエリア上の桟橋の構築に向けられている。造成されるエリアには化学物質の貯蔵タンクや液化石油ガスの貯蔵タンクの建設も予定。当然、港湾管理の仕事、桟橋構築の仕事、液化石油ガスの受け渡し施設を含めた港湾施設プロジェクトへの投資が進められる。

現在のマプタプット工業港には12社が入っており、32カ所の桟橋が稼働している。過去10年間、マプタプット工業港の取扱貨物量は、年率5.3%で伸び続けてきた。昨年のマプタプット工業港を使用した船隻数は7,000隻を越え、4,465万2,387トンの貨物が出入りした。うち58%が石油、ガス関連の貨物、17%が石炭、16%が化学製品、9%がその他という割合である。取扱貨物は金額にして4億8,900万バーツに達する。タイないしは東南アジアで、石油化学工業をベースとする有数の港湾施設となっている。

 

EEC開発政策委員会のカニット・セーンスパン事務局長はEECの未来について「EEC法の制定の狙いは、投資家の信頼を高め、今後、政権交代が起きても開発政策が大きく変わることはないとの保証を固めることです。EEC関連の担当部署が明確になり、首相を委員長とする東部経済回廊開発政策委員会が設定されたことが何よりも大きいです」と話す。

タイ政府は次世代自動車、スマート・エレクトロニクス、医療・健康ツーリズム、農業・バイオテクノロジー、未来食品、ロボット、航空・ロジスティック、バイオ燃料とバイオ化学、デジタル産業、医療ハブの10の産業を重点業種としている。従来からの5つの産業については、まず自動車産業がEVに変貌する動きを見せている。エレクトロニクス産業はインターネットのIoTの波に乗ることになる。新たな5つの産業については、ロボット産業、デジタル産業があり、これらの産業は環境に衝撃を及ぼす種類のものではない。

カニット氏は語る。「もしEECがなければ、タイの経済成長率はせいぜい3%止まりでしょう。EECの開発はプラス2%の成長を促します。2016年のBOIへの投資申請総額は2,000億バーツでしたが、2017年にはそれが3,000億バーツに及びました。今年は中国、欧米の投資家が待ち望んでいたEEC法が整備され、投資申請は一段と増える見込みです」。

EECにおける10のターゲット産業のほかにも、11番目の主要な産業として国防産業があげられる。安全を強化する役割を持つ新技術導入のサポーティング・インダストリーである。将来のサイバー分野の変化はさながら戦争のようなもので、インターネットやドローンが各局面に入り込む。これらの産業ならびに研究開発活動は、企業活動のサポートないしは増強に益することになるだろう。

カニット氏は「EEC法の成立で政府各省庁が環境に影響を与えない各種のプロジェクトを進める保証が確立し、信頼度が高まりました。民間のBOIへの申請が増え、GDPは成長し、経済は一段と安定します」と期待。将来、環境問題への懸念も否定する。政府は投資エリアを各種の環境基準をクリアした在来の工業団地の敷地に限っているからである。布告を出して従来の工業団地31カ所から21カ所を選んで奨励する方針を明らかにした。10のターゲット産業にとって3万ライを超える工業用地は十分に広い。

現在、全国的に大卒で未就職の人材が失業者の30%を占めているという。さらに、EECの3県では32%を占める。一方で、企業側では5万人余りの労働者不足が起きている。EECは多くの人材が職に就く環境を整える。カニット博士は「今後、インフラの建設が広がり、各地が結ばれることによって、バンコクに流れ込む多くの人材が、EECエリアにも流れ込むことになるでしょう」と見込む。

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