アジア熱血機械人 (上)

最近縁あって、CNC(コンピュータ数値制御)の工作機械を熟知し、機械や金型製造などで起業したローカルの“熱血機械人”社長をタイ、ベトナム、中国で取材することができた。今回はタイでは珍しいCNCの工作機械メーカー、次号ではスクラップ状態の各種CNCを自ら直して、日系大手向けを中心に金型を製造するベトナム人起業家、および中国で日系大手向け向けに金型工場を起業した中国人女性経営者を紹介したい。

産業高度化を目指すタイ政府は「タイランド4.0」として法人税免除などの恩典を与えて世界からハイテク企業の誘致に取り組んでいる。タイで育っていない高度技術の導入を急ぐ考えだが、ほとんどが外資頼みで新技術を受け入れるだけの教育を受けたタイ人のエンジニアが不足していることがネックになっている。しかし、純タイ企業のCNC工作機械メーカー、CNCBRO.comを経営する若手のチャカポン社長に会い、タイにもこのような人物がいることを知ってうれしくなった。中国にいる弟と協力しながらタイ市場をメインに製造販売しており、毎年11月にはバンコク国際貿易展示場(BITEC)で開催される工作機械の国際展示会「METALEX」にも出展。「2018年の出展で8回目にあたります」とチャカポン社長。

タイランド4.0でハイテク機械はタイ政府が期待する対象業種に入っているが、CNCBRO.comはこれまで特に政府からの支援などは受けていない。しかも、チャカポン社長はCNC機械について関心がある人材を増やすための学校も社内外で経営している。自社の機械販売の一手ではあるが、「CNCについての知識をASEAN市場で広げたい。CNCを教える活動が私は最も好きです」として飛び回っている。

アメリカや日本での経験経て起業

CNCBRO.comという社名はなにやらIT企業めいているが、実はCNC工作機械の製造販売をメイン事業にしている。さらに、チャカポン(Chakapol Chandsawangbhuwana、愛称JEFF)社長はビジネスとしては利益にはならないCNCを教える教育事業にも力を注いでいる。

チャカポン社長はバンコクの高校を卒業してからアメリカのカリフォルニア大学(UC)アーバイン校でメカニカルエンジニアリングを学び、卒業後にサントアナカレッジに通ってCNCやプログラムなどを学んだ他、普通は大学に行かない人が学ぶ専門学校に通って電気も学んだ。アーバインではきれいなオフィスでコンピュータを扱う楽なアルバイトもあったが、「夜間に油まみれになる機械工といった汚れ仕事を意識して選んでやりました。若い頃に苦労が多い方が将来のためになると感じていました」と振り返る。アーバインには計20年ほど住み、現在はCNCBRO.comのアメリカ事務所を設置している。

チャカポン社長はかつて日本で働いたこともある。名古屋でアメリカ市場向けに中古のパチンコ機を輸出する仕事に就き、1年後には日本語も少し話せるようになった。そして、プラスチック成型・金型製造の矢作産業のタイ進出を手伝うために久しぶりに帰国した。矢作タイランドのチョンブリ県での工場立ち上げを手伝い、現在もサポートしている。その一方でチャカポン社長は、中国の広東省広州に住む弟がCNC機械の製造販売をしていたことから、協力するCNCBRO.comをバンコクで起業した。妹もカリフォルニアでエンジニアをしており、父親も機械のエンジニアで保有するレンタル工場を日系の部品メーカーに貸したりしている“機械一族”。母親は歯科医。

チャカポン社長の名刺には製造販売している機械のカラー写真を多数掲載しているが、会社での肩書の「社長」は入れていない。チャカポン社長によると、社名であるCNCBRO.comの「BRO」は中国で機械製造工場を経営する弟を意味し、兄弟の協力事業であることを表している。「機械加工で作るフレームなどのベースマシンは40~50%が中国製になりますが、エレクトロニクスなど、組み込むほとんどのパーツは台湾、日本、アメリカ製で、当社が入手してCNC機械本体として組みあげ、電子制御装置も当社で製造しています」とチャカポン社長は説明する。

 

CNC機に特化して生産

製造販売しているCNC工作機械は5軸までの彫刻機(CNC ROUTER)、モールドメーカー(CNC MOLD MAKER)、旋盤やセンター機(CNC CENTER & CNC LATHE)、5軸までのレーザー加工機(CNC LASER)、プラズマ機(CNC PLASMA)、フレーム切断機(CNC FLAME CUTTING)などで、顧客の要望に合わせた特注機の生産も行っている。他にレーザー溶接機、レーザーマーキング機、ベンディング、バンドソーなどと広い範囲の機械を扱っている他、CNC関係のパーツ販売も行っている。

10年ほど前に同社を設立。「これまでに大中小を合せてCNC機械を約2,000台販売してきました。大型機に限れば年100台ほど製造販売をしています」とチャカポン社長は話す。顧客の8割はタイ企業で、残る2割には日本やアメリカ企業の他、1度だけヨーロッパの企業に出荷したこともある。

顧客の業種は自動車部品メーカーをはじめ、店舗の入り口などで使われる看板や木製扉など家具関係、装飾関係、宝石部品などと多方面に至っており、それぞれが4分の1ずつの比率になっているという。鉄、木、プラスチックの他、石材も加工対象にしている。「ラオス、カンボジア、ミャンマーからの注文は木工加工で、私たちの機械が使われています」。

例えば同社が45万バーツで販売しているCNCレーザー加工機(1325-SS)では、厚さ1ミリのステンレスや軟鋼の一辺が1200~1500ミリの加工を毎分5メートル、精度0.01ミリで加工できる。「ヘッドのレンズを交換することでプラスチックや木材で厚さ20ミリの加工も同じ機械で両用できます」とチャカポン社長は語る。

アフターサービス活動としては販売したCNC機械のセットアップ、メンテナンス、修理などの他、旧タイプの機械に新規の部品や機能を組み込んで新しい形式にするレトロフィット、CNC機械の改造を手掛けている。CNC機械やCNC関連部品の輸入販売などを行っている。

バンコクのラマ3世通りにあるテスコロータスの隣接地に同社の本部を置き、小型機の展示実演もできるショールームや、CNCを教える「トレーニングセンター」も併設しており、チャカポン社長自身が講師を務めている。他に、バンナーの6キロ地点に大型機を中心としたショールームなども構えている。特徴の一つは機械の購入後に買った機械を使いこなせるまで主にチャカポン社長から導入教育が受けられること。ショールームに付属しているトレーニングセンターでは3日間のCNC機教育プログラムも用意している。

CNC教育にさらに注力

「アメリカと日本からタイに戻って来た私はチュラロンコン大学で教師の修士資格を取りました。人に教えることが大好きで、私の場合はCNCに関して教えることです。ですからできれば現在よりも大きな教育訓練スペースを確保し、さらには独立した学校も早く建てたい」とチャカポン社長は構想する。

同社のトレーニングセンターで開かれている教室では、同社のCNC機械をすでに購入した顧客だけでなく、個人やグループでCNCについて学びたい人は誰でも受け入れている。これまでは1日か2日間で終わるコースが多い。初心者向けから工具選定や操作方法、上級者向けなどに分けており1人でも受講は可能。CNCプログラムのベーシックGコード、2Dと3DのCAD/CAM(コンピュータ支援設計/製造)では3日間に渡る導入コースがあり、4D、5DのCAMについても教えている。

CNCの機械は大学の工学部にしか置かれていない。だから機械を見ることもできないテクニカルスクールや高校の生徒にCNCによるモノづくりを教えて関心を高めてもらいたいとチャカポン社長は期待していいる。ホームページなどでトレーニングセンターの存在を知ったカンボジアやベトナム、ラオスからも学びに来る人がおり、授業は英語で実施している。彫刻した置物などをCNCBRO.comの加工機などで製造したり、今後の製造を考えている人が学びに来ているという。「バンコクのインターナショナルスクールに通う子供達にも英語でCNCによるモノづくりについて教える長期講座も開設したい」とチャカポン社長は意欲を見せている。

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