泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第63回『TNIの今後の5年計画』

タイでものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。今回は今年の8月2日のTNI創立10周年記念行事で発表された、TNIの今後の5年計画を紹介させていただきます。タイ政府が2015年末に発表したタイランド4.0は反響を呼び、今年9月、世耕経済産業大臣と約600人の日本企業ミッションがタイを来訪。首脳会談や産業高度化・EEC(東部経済回廊)をテーマとしたシンポジウム等に出席したほか、開発の重点地区であるチョンブリ県など東部3件を視察しました。以下は親機関のTPAとTNIがクラスターとして共同し、タイランド4.0を含むタイの主要課題に取り組む戦略計画です。
1. タイの最近の社会経済開発
タイは2006年以来、真の成長可能性と中所得の罠から脱出する能力を阻害する長引いた政治不安定に直面しています。現在、政府と民間部門は、より革新的で高付加価値の新しい技術やビジネスモデルを開発し、推進することが不可欠である、と認識しています。タイ政府は2015年に、将来の経済成長のためのガイドラインを提供するビジョンを「タイランド4.0」として発表しました。この戦略計画では、新しい産業分野と成長分野が新たな10のS字曲線として認識されています。政府が進めてきた具体的なイニシアチブの1つは、最近、関連法が制定されたEECプロジェクトの創設です。そして十分な人的資源の必要性は、この種のイニシアチブにとって重要な成功要因の1つであることはよく認識されています。従って、タイが新しい時代に成功するためには、組織や既に雇用市場に参入した労働力の能力強化が非常に重要であると考えます。
今後のプロジェクト | 内 容 | ネットワーク/支援者 |
1. eラーニングプラットフォームの設置 | 製造業のモノづくり、製造業人材のためのデジタル技術など、必要な分野で人材育成を目的に、大規模オープンオンラインコース(MOOCプラットフォーム)を導入し、コンテンツ開発を行う。 | これまでの専門家ネットワーク、TNI、特定分野の新しいネットワーク、日本の専門家。 |
2. COE(Center of Excellence、研究開発拠点)の設置 | TPA-TNI事業を拡充し、その貢献度を高めるために、TQM(総合的品質経営)のCOE、TPM(総合的生産経営)のCOE、人工知能システム統合のCOE、データサイエンスとアナリティクスのCOEなど多くの研究開発拠点を設ける。 | これまでの専門家ネットワーク、TNI、関連分野の新しいネットワーク、専門家の交流や共同研究プロジェクトなどで日本からの支援を得る。 |
3. 特定分野における技術移転センター設置 | 工場自動化、ロボット使用のためのシステム統合、製品設計と開発、製造業とサービス業の両方でデジタル技術を活用。 | 産業界との協力、タイ政府と日本政府からの産官学協力の構築と活用。 |
4. 技術者と新起業家のためのインキュベーションセンターの設置 | 新製品/サービスの開発を目指す技術者やスタートアップ企業には、スペース、施設、専門家を提供。起業家育成研修も提供。 | スタートアップやベンチャー投資・融資者との協力、タイと日本の政府からの支援を申請。 |
5. タイ近隣諸国への事業拡大 | トレーナー・トレーニング。TPAの産業技術・経営各種大会への参加。TPAのeラーニングプラットフォームへのアクセス。TNIの近隣諸国の学生に国際コースの提供。 | 学生交流、奨学金、日本でのインターンシップに経済産業省(METI)と日本企業からの支援。TPAのeラーニング内容へのMETI支援。 |
2. 大きな課題
現在、公的部門と民間部門の双方が適切に対応しなければならない多くの課題があります。政府が必要なインフラと法的枠組みを提供しなければならないと同時に、包括性と平等は非常に重要な問題です。タイ国民のための能力強化は、持続可能な経済発展と長期的な経済的繁栄のために非常に重要です。
民間部門の場合、喫緊の課題は生産性を高め、技術革新能力を高めることです。製造部門では、自動化やその他の人工知能システムなどの最新技術が活用されるべきです。またサービス部門もタイ経済の成長に大きく貢献するため、ITシステムを集中的に活用した新しい創造的ビジネスモデルを広範に展開する必要があります。従って、タイランド4.0を推進するための主要技術の1つがデジタル技術であることは過言とは言えません。デジタル経済社会省の最近の設立は、現政府がこの分野に取り組んでいることを示しています。
3. TPA‐TNIクラスターの戦略的トピック
次の5点に対応します。
(1) ITシステムを用いた学習モデル展開。
(2) 特定分野における学習内容レベル向上の一方、適切な普及方法の採用。
(3) 顧客グループを特定し、サービスモデルを作成。
(4) タイ近隣諸国への活動拡大。
(5) ネットワークと内部管理の強化。
4. TPA‐TNIクラスターの今後の展開
社会貢献活動を強化するため、表に示す新プロジェクトを進める予定です。
筆者 吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問
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