タイ版 会計・税務・法務
第138回 今回のテーマは、新しく導入された 「e-withholding Tax」についてです。
Q:最近、取引先の銀行から「e-withholding Tax」の紹介を受けたのですが、これはどのようなものでしょうか??
A:タイにおける納税実務において、煩雑なものとしてVATに関わるTAX INVOICEのやり取りと、企業間取引における源泉徴収税の取り扱いが上げられるかと思います。これらは①取引毎に追加的に税務関係書類を用意しなければならないこと(VATにおけるTAX INVOICE、源泉徴収税における源泉徴収票)、②用意した書類を取引の相手側に送付しなければならないこと、③受領した側ではこの書類を保管管理しておかなければならないこと、④会計に記録された取引と書類の照合/確認をしなければならないこと、さらには書類の分量が膨大になることから、企業における事務負担がとても大きいものになっていました。 こうしたなか、タイでも電子政府化を進めていますが、源泉税について、ネットバンキングを利用することにより、源泉税の納付・申告及び源泉徴収票の送付をネット上で行う「e-withholding tax」(e-WHT)システムが導入され、この10月から銀行で同サービスの提供が開始されました。 このe-WHTシステムの概要ですが、1)対象は事業者間のサービスに関わる取引に関わる源泉税(給与源泉税等は含まれておりません)、2)銀行のネットバンキングでの支払い利用が必須、3)支払いを入力する際に支払い先のTax ID、源泉税率等を入力、4)支払い実行後は、銀行の方で自動的に納税処理を行い、ネットを通じた源泉徴収証明書の発行が行われる、5)源泉税のデータは税務署のシステムで保管されるという形になっています。 このしくみを例示してみますと、例えば100のサービスの支払いがあり、3%の源泉税を支払わなければならない場合、これまでは97を支払って3を翌月税務署に支払人が別途納付していましたが、このe-WHTを利用すると、支払人は100を口座から支払処理を行うだけでよく、3は銀行が税務署に納税、97が受取人口座に入金されることになります。また、受取人に対しては3の源泉徴収票がeメールで自動的に直接送付されます。 支払人にとっては、源泉徴収税を別途納付することと、源泉徴収票を発行することの、二つの事務手間が省かれることになりますので、大きなメリットがあるといえるかと思われます。 また、過去の納税履歴についても、税務署のサイトを通じてダウンロードすることができるため、書類保管についても負担軽減になるかと考えられます。 また、このe-WHTを利用する場合、サービスにかかわる3%の源泉税が、来年12月まで2%へと減税となっているものもありサービス業者にとってもメリットがあります。 サービス業に従事されていて源泉税還付にお困りの場合には、お取引先にe-WHTの利用を依頼されることも、お互いのメリットになりますので、ご検討されてはいかがかと思います。 ただし、このe-WHTはネットバンキングで該当するサービスを申し込んだ場合に限られており、小切手・現金・通常振込の場合にはこれまで通りの源泉税の管理が必要ですので、e-WHTを併用される場合は、ご留意ください。
本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。なお、法務・税務・会計の情報詳細については、MAZARS(THAILAND)のHPもご参照ください
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2020年11月1日掲載