タイ版 会計・税務・法務
【第73回】出張ベースでのタイでの労働について
Q:弊社はタイにすでに法人を設立し、日本人駐在員も派遣しているのですが、日本法人からも営業支援として出張ベースで人員を派遣できないかと考えています。こういった対応は可能なのでしょうか。
A:タイで労働する外国人は労働許可証の取得が必要とされていますので、仮にそれが出張ベースだったとしても、労働許可証の取得を行うのが原則的な対応になります。一方で、BOIの投資奨励を受けていない会社を前提にした場合、労働許可証の取得を行うためには最低でも外国人1人当たり『タイ人4人の雇用』と『200万バーツの資本金』が必要とされるなど、実務上は難しい対応になるかと思います。
この点、タイ国は短期間かつ緊急の業務であることを前提に、労働許可証の取得をすることなく、一定の届出(WP.10)だけでタイで労働することを認めています(※1)。恐らく御社のケースでは、こちらを実施することが現実的ではないかと思われます。
Q:『WP.10』の実施制限などは有るのでしょうか。
A:当該届に関する説明文(※2)を見る限り、期間・頻度などを基準とする実施制限は明文化されていない模様ですが、実務上年間二回が限度になっているという説もあります。一方で、当該届出が『本当に緊急であるのか(前もって予定された予定ではないのか)』『申告者の参加が本当に必要か』といった点に照らし、たとえ初回の申請であったとしても申請が受理されない可能性も十分にあります。
Q:どういった行為が労働と見なされる、といったような定義はあるのでしょうか。
A:雇用局はこの度新規に『労働』と見なされない行為の範囲に関する発表を行いました。この結果、外国人がここに例示されるような行為をタイで行うために短期間タイに入国する場合、当該行為は『労働』と見なされないことから、労働許可証やWP.10を取得する必要はないことになります。以下の行為がその『労働』とは見なされない行為の対象です。
1. ミーティングやセミナーへの参加
2. 展示会や貿易フェアーへの参加
3. ビジネス上の訪問やビジネス上の交渉の実施
4. 特別講義・学術的講義への参加
5. 技術訓練・セミナーへの参加
6. 貿易フェアーにおける物品の買付
7. 自身の会社の取締役によるミーティングへの参加
新BOI制度下において国際統括事務所(“International Headquarter”以下IHQ)及び国際貿易センター(“International Trading Center”以下ITC)が導入され、タイにおける人・物の流通を活発化させ、タイをビジネスハブとしようとする動きが進む中、この動きに歩調を合わせる形での発表ということが出来そうです。
他方、雇用局は『何日間まで労働許可証やWP.10無しで当該行為に従事できるのか』であったり、『どのような方法でこれらの行為に従事していることを証明すれば良いのか』といった点に関する公表を行っていませんので、この点には注意が必要かと思われます(※3)。
Q:仮に労働許可証もWP.10も提出せずに従業員を勤務させた場合、どのようなペナルティが課されますか。
A: 法令上、個人は『5年以下の懲役又は2,000バーツ以上100,000バーツ以下の罰金もしくはその両方(※4)』、法人は『(その勤務させた外国人従業員)1名につき10,000バーツ以上、100,000バーツ以下の罰金(※5)』のペナルティが課されるとされています。
(※1)在タイ日本国大使館ウェブサイト参照。
http://www.th.emb-japan.go.jp/jp/mamechishiki/wp.htm
(※2)タイ労働省ウェブサイト参照。
http://www.mol.go.th/sites/default/files/downloads/pdf/form_tt10.pdf
(※3)タイ雇用局ウェブサイト参照。
http://wp.doe.go.th/wp/images/law/3/notice11032558.pdf
(※4)外国人就労法第51条①
(※5)外国人就労法第54条
なお、本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。
2015年6月