タイの製造業革命 自動化・ロボット化が創るものづくりの新時代

新型コロナウイルスの感染拡大はあらゆる産業に衝撃を与え、特にロックダウンの期間中は経済活動が混乱した。その結果、各産業は人と人との接触を減らす業務方式を取り入れ、新たな規範に適応しはじめた。工業セクターでも従来の慣れ親しんだ生産システムを見直し、作業の自動化、ロボット導入の機運が高まっている。タイはロボットと自動化の設備が整った国の1つである。タイ政府は国際競争力を高め、次世代産業を発展させるため、官民を挙げて自動化、製品の高付加価値化を推進していく。 文/Jeeraporn Thipkhlueb

世界のロボット市場

ドイツに拠点を置く国際ロボット連盟(IFR)が昨年9月に発表した「ワールド・ロボティクス・リポート2020」によると、2019年の世界の製造業におけるロボット密度(従業員1万人当たりのロボット稼働台数)は平均113台となり、過去最高を記録した。  地域別にみると、西欧(225台)および北欧諸国(204台)で最も自動化生産が進んでおり、北米(153台)、東南アジア(119台)が続いている。世界で自動化が進んでいる国の上位10カ国は、上から順に、シンガポール、韓国、日本、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、香港、台湾、米国、ベルギー/ルクセンブルクだった。  前年に引き続き世界トップとなったシンガポールのロボット密度は918台。シンガポールにおける産業用ロボットの最大の導入先は、半導体やコンピュータ周辺機器を中心とするエレクトロニクス産業であり、同国における稼働台数全体の75%を占めている。  第2位の韓国は868台。韓国はサムスン電子やLGといったトップ企業を擁し、液晶ディスプレイやメモリチップ製造において市場を牽引するとともに、自動車や電気自動車用バッテリー製造の主要な製造拠点でもある。  第3位の日本は364台。日本は世界屈指のロボット生産国であり、ロボットを組み立てるロボットまで存在する。世界全体で生産されたロボットの47%が、日本で生産されたものである。日本で稼働中の産業用ロボットのうち、34%を電気・電子産業、32%を自動車産業、13%を金属・機械産業が占めている。  第4位のドイツは346台。ドイツは欧州最大のロボット市場で、欧州の産業用ロボットの38%が同国の工場で稼働している。ドイツの自動車産業におけるロボット密度は世界最高の水準にある。同業界の雇用者数は上昇中であり、2010年は72万人であったが、2019年には約85万人に増加している。  第5位のスウェーデンは274台。同国で稼働中のロボットのうち、金属産業及び自動車産業がそれぞれ35%を占めている。第6位のデンマークは243台、第7位の香港は242台、第8位の台湾は234台だった。第9位の米国は228台に増加した。米国の自動車市場は、前年に引き続き中国に次いで世界第2位となった。また、自動車生産量も世界第2位の規模であった。米国と中国はともに、世界の自動車メーカにとって極めて競争の激しい市場である。第10位のベルギー/ルクセンブルグは214台だった。

タイのロボット産業

国際ロボット連盟(IFR)によると、タイへの産業用ロボット出荷台数は2016年には2646台であったが、2019年には4000台に増加。2020年には5000台に達し、16~20年の年平均成長率は17.2%となり、同期間の世界の産業用ロボット導入の年平均成長率11.7%を大きく上回る見込みだ。  2020年第4四半期(10~12月)の貿易収支は前年同期比13.5%減の3億6,900万バーツで、ロボットの輸出額は同43.6%減の5,700万バーツだった。これは新型コロナによる世界経済の萎縮による。一方、ロボットの輸入額は4億2,600万バーツ(0.1%減)と、ほぼ前年並みの水準となった。  モンクット王工科大学・フィールドロボティクス研究所(FIBO)所長のサヤーム・ジャルンシアン博士は、FIBOトークセミナーで次のように語った。  「ロボット科学に力を入れて国の発展を進めるには、ロボット需要の増大が必要だ。タイは高齢化社会に入り、生産年齢人口が減少している。産業界の人手不足が常態化し、コロナ以前から自動化やロボットの需要が高まっている。同時に、人々が失業しているという興味深い点もある。背景にあるのは、労働者の能力が産業界のニーズを満たしていないことや、最低賃金の上昇により、企業が能力の低い労働者を抱える余裕を無くしたことがある。  労働賃金上昇の圧力に耐えられない企業は自動化・ロボット導入に望みをつなぐようになった。すなわち統合システムによる生産だ。将来の国際競争力を見据えるならば、タイはこの分野において国産技術の開発を進めるしかない。コロナ禍を逆手にとって、生産現場に関する考え方を変えるべきだ。この困難な局面を乗り切るには、迅速に国産ロボットを開発し、普及させる必要がある」  現在、最大2,000億バーツの輸入削減を目指し、自動化に携わる各組織は産業界やその他の分野で重要な役割を果たしている。タイ投資委員会(BOI)は同分野を奨励するべく、6ヶ月間で約110億バーツの予算を投じる。企業は一層本気になり、ニーズが増大するだろう。  EEC事務局の発表によれば、昨年7月15日以来の東部経済回廊(EEC)域内への投資額は1億9,500万バーツで、なかでも自動化、ロボット導入への投資が増えている。それに伴い自動化システムを動かすエンジニアや修理工など、同分野の人材ニーズも高まっている。

政府も積極的に支援

下請け企業にとっても、もはや自動化の流れは避けて通れない。タイサブコン(タイ下請け振興協会)のキアティサック会長は次のように語った。  「タイは単純労働を中心に、ミャンマー、カンボジア、ラオスなど周辺国からの外国人労働者に依存している。しかし、タイ企業にとって重要な役割を担うこれらの外国人労働者の一部が、新型コロナの影響で帰国してしまった。彼らに去られて、多くの中小企業が自動化、ロボット導入に目を向け始めた。新型コロナは、生産現場が変わる契機になったといえよう。工場も商店も、ロボット導入による業務の円滑化、精密化を目指すようになった。  製造業の工程自動化は、サプライチェーンの効率化およびコストダウンにつながる。その結果、生産性は上がり、消費者のニーズは満たされ、海外からの信用も高まる。先に自動化システム、ロボットの導入を進めた企業が、早い者勝ちの原則で生き残ることになるだろう。工場へのロボット導入により労働者不足の問題は緩和され、人材の最適化、残業代の削減も進む。人間が行うには体力的につらく危険な作業も、ロボットであれば24時間稼働可能であり、作業における怪我のリスク軽減にも繋がる。ヒューマンエラー(人的ミス)は無くなり原材料のロスも減る。  業務の自動化により発生した余剰人員を、販路拡大など利益率を高めるためのタスクに回すことも可能になる。自動化により、人はより付加価値の高い業務をこなす必要があり、現場の作業者に期待される能力も従来とは異なるものへと変化する。今後はその変化に対応した高度な人材育成が推進され、真に役立つ人材が育つだろう。タイの次世代産業の発展を確実なものにするために、事業家は今こそ自動化、ロボット導入に踏み出すべきだ」

下請け企業にとっても、もはや自動化の流れは避けて通れない。タイサブコン(タイ下請け振興協会)のキアティサック会長は次のように語った。  「タイは単純労働を中心に、ミャンマー、カンボジア、ラオスなど周辺国からの外国人労働者に依存している。しかし、タイ企業にとって重要な役割を担うこれらの外国人労働者の一部が、新型コロナの影響で帰国してしまった。彼らに去られて、多くの中小企業が自動化、ロボット導入に目を向け始めた。新型コロナは、生産現場が変わる契機になったといえよう。工場も商店も、ロボット導入による業務の円滑化、精密化を目指すようになった。  製造業の工程自動化は、サプライチェーンの効率化およびコストダウンにつながる。その結果、生産性は上がり、消費者のニーズは満たされ、海外からの信用も高まる。先に自動化システム、ロボットの導入を進めた企業が、早い者勝ちの原則で生き残ることになるだろう。工場へのロボット導入により労働者不足の問題は緩和され、人材の最適化、残業代の削減も進む。人間が行うには体力的につらく危険な作業も、ロボットであれば24時間稼働可能であり、作業における怪我のリスク軽減にも繋がる。ヒューマンエラー(人的ミス)は無くなり原材料のロスも減る。  業務の自動化により発生した余剰人員を、販路拡大など利益率を高めるためのタスクに回すことも可能になる。自動化により、人はより付加価値の高い業務をこなす必要があり、現場の作業者に期待される能力も従来とは異なるものへと変化する。今後はその変化に対応した高度な人材育成が推進され、真に役立つ人材が育つだろう。タイの次世代産業の発展を確実なものにするために、事業家は今こそ自動化、ロボット導入に踏み出すべきだ」

 

BOIは優遇政策を実施

タイ投資委員会(BOI)は「生産効率改善策」と題して、従来の投資促進計画を改善する政策を打ち出した。製造業とサービス業の効率を国際基準まで引き上げ、工業セクター全体の国際的な認知度を高めるのが狙いだ。自動化への投資を促進するために、タイでロボットや自動化機械設備の製造ならびにシステムインテグレーション(SI)の事業を行う企業に高い恩典を付与するとともに、既存機械をより効率の高い機械に代替した場合にも恩典を付与する。同政策により、これまで効率改善の推進要請に沿って認可されたプロジェクトも恩典申請期限が2年延長され、2022年末までとなった。また改善に投じる資金の50%を上限に、法人税が3年間免除される。  BOIは生産効率改善の要件として以下の4点を挙げた。①省エネと代替エネルギーの利用、②機械の改良による生産効率向上、③研究開発および効率向上のためのエンジニアリング設計、④持続可能な開発。恩典を受けられるプロジェクトはBOIが定めた企業活動の範囲内に限られ、中小企業は最低50万バーツの投資で認可申請の資格を得られる。  機械類の更新においては、申請者は既存の生産現場への自動システムの導入を含む機械更新計画を提出し、認可されたら投資額(土地代と運転資金を除く)の50%を上限に法人税が3年間免除される。また既存の機械類の30%以上が効率改善に使用される場合は、投資額の法人税100%が3年間免除される。  この効率改善政策には既存型の自動車・バイク部門は含まれないが、排気量248㏄以上のバイク、ハイブリッド電気自動車(HEV)は例外として申請が認められる。また商用エレクトロニクス部品、天然ガススタンド、貿易投資支援事務所(TISO)、国際ビジネスセンター(IBC)への投資プロジェクトも例外となる。  加えて、デジタル化推進の企業活動は、従来の認可を受けたか否かを問わず、効率改善のプロジェクト申請ができる。デジタル化は組織全体の効率化を進め、競争力を高めることに繋がるからだ。申請可能なプロジェクトは投資額(土地代と運転資金を除く)が100万バーツを超えること。中小企業は50万バーツとする。デジタル化計画はIT導入、デジタル機器・機材、ソフトウェア等の分野において、経営資源を管理する人工知能(AI)、マシンラーニング、ビッグデータ、データ分析、国の電子決済システムやその他の政府機関に接続するITシステム、ソフトウェア等を明確にする必要がある。2022年末までに計画を申請し、認可されたら投資額の50%を上限に法人税が3年間免除される。  産業界では自動化やロボットの導入が加速しており、多くの企業が省人化(人件費削減)、生産性向上、品質向上、多品種対応などのメリットを得ている。タイでもロボット普及により、慢性的な労働力不足が緩和されつつある。また新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、国内でのロボット開発も急速に進んでいる。ロボットは今後、外資に頼ってきたタイのものづくりに変革をもたらし、工業セクターの新時代を開く鍵となるだろう。

2021年5月5日掲載

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